1921年、カナダのバンティング博士らによって発見されたインスリンは、まさに「奇跡の薬」でした。第1部では、初期のインスリン研究に焦点を当てました。今回は、その後のインスリンがどのように改良され、そして現代の治療にどのようにつながっているのかをたどっていきます。
インスリン治療の幕開け:動物由来のインスリン
初期のインスリン製造は、動物、特に家畜の膵臓から抽出されていました。1922年、大正11年の頃、インスリンを1本作るためには、大量のブタの膵臓が必要でした。1923年、大正12年にはインスリン製剤が成功裏に作られ、発売されました。
日本にも輸入され、使用が始まりました。その時の価格は100単位で8円で、当時の教員の初任給が約50円だったことを考えると、とても高価な薬でした。しかし、初期のインスリン製品は不純物が多く、注射後に赤く腫れたり、皮膚がやけどのようになる副作用も見られました。
そこで、より純度の高いインスリンが開発されましたが、その結果、作用時間が短くなるという新たな問題が生じました。
これを解決するために、魚から抽出したたん白質(プロタミン)を加えることで、皮下からの吸収が遅れ、インスリンの作用時間が長くなることが分かりました。
ちなみに、日本では、戦争の影響と畜産が少なかったことから、1968年までマグロやクジラからインスリンを抽出して使用していました。
まとめると、これら動物由来のインスリンは人間のインスリンに非常に似ており、多くの患者に効果がありましたが、以下のような課題が残っていました。
- 不純物によるアレルギー反応
- 長期的な使用での抗体産生
- 効果のばらつき
これらの課題を乗り越えるため、インスリンは改良を重ねていきます。
合成インスリンの誕生:ヒト型インスリンの登場
1970年代、遺伝子組み換え技術が急速に発展しました。この技術では、遺伝子(DNA)を操作して特定のタンパク質を生産させることが可能となりました。インスリンの場合、ヒトのインスリンを生産するためには、ヒトのインスリン遺伝子を大腸菌や酵母などの微生物に組み込む必要があります。
1978年、アメリカの生物学者であるウォルター・グリッカーとそのチームが、遺伝子組み換え技術を使ってヒトインスリンを合成することに成功しました。彼らは、ヒトのインスリン遺伝子を大腸菌のDNAに組み込み、その大腸菌がヒトインスリンを生産するようにしました。この方法により、動物由来ではなく、ヒトに非常に近いインスリンが大量に安定的に製造できるようになりました。
1982年、世界で初めて「遺伝子組み換えによるヒトインスリン(ヒューマンインスリン)」が実用化されました。これは、前述の動物型のインスリンと比べて、以下のような利点がありました。
- アレルギー反応が激減
- 安定した供給が可能に
- より自然に近い効果
1型糖尿病の患者さんの命をつなぐ一滴であったインスリン、私たちはいま、ただ「生き延びる」だけでなく、「よりよく生きる」ためのインスリンと共にあるのです。
ご希望があれば、このまま第3部(より未来のインスリン、各国での開発競争)も紹介していきます。 今日はこのへんで。
当院のブログが、糖尿病と向き合う皆さま、そしてそのご家族にとって、少しでも希望や安心につながるものとなれば幸いです。
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令和7年4月17日
茅ヶ崎ファミリークリニック
院長 石井 尚
茅ヶ崎ファミリークリニック(内科・小児科・皮膚科)
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